サスペンス作家の恋愛小説

ある小説家は長年溜めておいたアイデアを元に凄く素敵な恋愛小説を書きました、それは凄くイノセントな内容でシンプルな愛の物語。人間が心を開くことによる、心の根底にある部分での共感、共鳴のこと、繋がること、世間の常識のくだらなさ。それはそれはとても幸せな物語の終わりでただシンプルに愛することによる人間のありのままが描かれていました。
世間は常識というフィルターに苦しめられその物語の評価は賛否両論となりました。
ただそれだけ白黒ハッキリしたのでグレ―にならず話題となったこと、内容が彼にしては過去になかったテーマによる新鮮さが功を成してヒットしたこと。その物語の第二章を書けと編集長は命じるので、その小説家は困った。何故なら最高に幸せな終わりというのは最悪な始まりを意味するのです、始まりは最悪となると気分が滅入るもので時間ばかりが刻々と過ぎるです。
彼は悩みました、彼はただ孤独と愛を根本から見つめなおし、書いただけなのです。ただ世間がそれを問題作として話題作として祭り上げたものですから皮肉にも彼は、その幸せをただの問題作としか思えなくなったのです。
二章はとても暗い内容なのでしょう、そして終わりは最高に幸せな嘘をかきつらねる、そうでもしないと傑作になる、駄作でいいのです、彼は二章なんぞ望んでいないのですから。でもただ一言、愛してると残酷にも最後のページに残すのでしょう。それは始まりであり終わりを意味する言葉であるから。