波紋

カチカチと羽根の振るえる音と共に小さな小さな羽虫の群れが、気付けば毎晩ベッドの上、手が届かない高さを飛んでいたことを思い出した。
それはそれは乾いた部屋のただ一人の人間の温もりが冷房の機械的な熱と絡み合った空気に劣化した音楽が生むノイズと混じり虚無による吐気を呼び起こす日々の中で光の中の闇のように記憶を飛び越え潜在意識とただ目の前をちらつくフラッシュとしてあったよう。
虫はどうやら心臓のリズムに引き寄せられ、血液を水と勘違いいし、脳をたいそうなご馳走と見違え一気に、毎晩ジリジリと食い荒しておりました。
それを時間と呼ぶようでジグソーパズルのような記憶となり常識に捕われて繋ぎ合わせて見ましたが、どうも心臓の居心地が悪いようでテトラポットと波が衝突するような痛みと引き潮の中でのたうち回る小さな砂と貝殻のように、不具合を血管の中にウイルスや猥褻な情報を混ぜ、痛みだけを麻痺させるよう送り出すのです。
どうやらこの痛みの麻痺した混沌はいわゆる亡霊がさ迷う理由を忘れることや旅人に故郷を忘れさせることと似ているようで、小さな穴の奥が闇で何も見えなかったことを、穴の向こうに宇宙が見えましたと、星のない都会の夜空を地上の体内時計が狂ったインソムニアを飼い慣らした人々のよう。その小さな穴が宇宙であるのなら、そこへと孤独も愛する人の温もりも吸い込んでしまうだろう、ただ貪欲に失い続けるように求め続ける、そこへ堕ちた光は星となる、その星に生命という概念が生まれる確率はアインシュタインが笑って誤魔化すような数字さ。星の数ほど人はいると言うがそこに生命が生まれたのは科学という概念で地球とあとどこかだけ。流れ星は痛みの瞬発力と血を燃やし飛ぶロケットらしい、そこへ祈る人々の願いは底抜けに明るい、願いなど不必要な人々。人々のの引力に引かれロケットは飛ぶのだ、人の穴へと吹き抜けの穴から穴へと終りはない。