黒い羽根

影がないのである、たしかにその男は色濃く存在しているのだが影がないのだ。そこにたしかに太陽の存在すら適度な光の存在があるのにも関わらず影がない。
誰かが踏み潰してしまったのだろうか、彼の虚無に満ちた笑顔は底抜けに明るく、まるで肉眼では見えないスロー再生にだけ見えるだけの酷い顔で止まる。
もし彼の影を誰かが踏んだのなら、影はどうしたのだろうか、飲み込んだのかね?乗り込んだのかね?
全く影のない男は体をくねらせて世界の中心にいるかのように異国の言葉を耳鳴りを呼ぶ声で、リズムよく踊りながら平坦に歌っている。
影がきっと誰かに憑いてるんだろうな、なんだかその男には悪い人ばかり寄ってくるがあまりに拍子抜けして去っていく、あぁ孤独と思うこともなく彼は陽気に去る人々へ向けて手をふる。
彼は弾き飛ばされるように進行方向を外した、反発する何か、彼は異常、だから反発する、普通なら避けてかわす術もあるのに。不可能な反発と重力が彼を動かす。
影である、大きな影がゆらりゆらりと陽炎と歩み寄る、彼は苦痛に満ちた顔を初めて見せたがわずかな時間がずれてひん曲がるような瞬間の内に彼の中で心の泉が枯れた。
人は本当に汚れてしたったら空を飛べるのかもしれない。不思議な重力と影が起こす力によって舞い上がるだろう。